Norrish, Porterらによるflash photolysisの開拓(1967年ノーベル賞)、1999年のZewailによるフェムト秒化学のノーベル賞に象徴されるように、20世紀の化学反応素過程の理解は、時間分解分光技術の発展と相まって深められてきました。近年更なるレーザー技術の進展により、より高い時間分解能、高度に制御されたレーザー場を用いてのダイナミクス測定に精力が注がれています。特に気相や溶液中などの均一系においては、過渡状態をうまく用意し、それに対して測定を行うことで、化学反応の真髄に迫る測定が実現されて来ました。
しかしながら、固液界面や固気界面など不均一系での反応においては、対象となる分子の絶対数が少ないことによる測定の困難があり、そのダイナミクス観測は今なおチャレンジングなテーマです。特にレーザーを用いた非線形分光により、吸着系のフェムト~ピコ秒スケールのダイナミクスを調べる試みはこの25年ほどの間に急成長を遂げてきましたが、均一系の成功例に比べるとまだ成熟期にあるとは言いがたいのが現状です。吸着系の電子・振動励起状態のエネルギー・位相緩和の実験研究については、デモンストレーション的な報告は一通り出揃った感があり、これからは表面での化学反応ダイナミクスの真相にどこまで迫れるかが研究の鍵となると考えられます。
我々のグループでは、フェムト秒~ピコ秒のパルスレーザーを用いて、いくつかの時間分解表面非線形分光を駆使し、特に超高真空下におけるwell-definedな吸着系を対象とした電子・振動状態ダイナミクスの研究を行ってきました。加えて現在では、既存の測定手法をさらに改良して、新規な情報の取得を目指した時間分解界面分光法開拓も行っています。