白金微斜面での水の構造


 水は我々の生活において馴染みの深いものですが、特にその表面や異種物質との界面での構造・ダイナミクスは、大気化学や触媒化学、電気化学など広範な化学反応に大きな影響を与えるものとして古くから興味が持たれています。 氷のような分子性固体の表面構造を精緻に決定することは、最先端の表面科学計測手法を用いても容易なことではありません。特に水分子の場合、特定の酸素原子の配置が与えられたとしても、そのもとでの水素原子の配置には自由度があり、それを実験的に決定することは非常に難しいのが現状です。

 我々は位相敏感検出和周波発生振動分光法を超高真空下の氷薄膜に初めて適用し、金属との界面での氷の構造や真空との界面での氷の表面緩和の詳細を明らかにしました。特にOH(あるいはOD)伸縮振動による非線形感受率の共鳴増大を位相情報も含めて検出することで、表面・界面でのOH基の「向き」と水素結合の相関を解明してきました。

最近は、優れた触媒作用をもつ白金の表面、そのステップサイトに着目し、白金微斜面単結晶の上での水の構造解明に取り組んでいます。ステップ等の欠陥サイトは触媒反応の活性点となりうることは昔から知られていますが、特に水分子が吸着した場合にステップサイトおよびその近傍でどのように振る舞うかについては、未だよくわかっていません。 我々は白金微斜面のステップサイトに吸着した水の分子配向を明らかにし、ステップサイトの水分子が表面全体の水分子の配向を支配していることを見出しました。

図1:位相敏感和周波発生振動分光により求められたPt(533)上の氷の非線形感受率の虚部。負の符号はOH基が白金基板側にプロトンを向けていることを意味する[1]。
図2:Pt(553)上に酸素と水を共吸着させた場合の非線形感受率の虚部スペクトル[2]。ステップの酸素原子によって水が解離しOH基が生成する。OH基は正の信号を与える。

参考文献



1. “Proton Configuration in Water Chain on Pt(533)”, Naoki Nagatsuka, Noboru Shibata, Toya Muratani, and Kazuya Watanabe, J. Phys. Chem. Lett., 13, 7660-7666 (2022).

2. "Hydroxyl Formation on Pt(553)", Naoki Nagatsuka, Shota Kamibashira, Noboru Shibata, Takanori Koitaya, and Kazuya Watanabe, J. Phys. Chem. C, 127, 8104-8112 (2023).

3. "Water orientation on platinum surfaces controlled by step sites", Naoki Nagatsuka, Takumi Otsuki, Shota Kamibashira, Takanori Koitaya, and Kazuya Watanabe, J. Chem. Phys., 161, 094705 (2024).(Selected as Editor's pick)

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