界面の氷・氷の表面の構造


 氷は我々の生活において馴染みの深いものですが、特にその表面や界面での構造は、大気化学や星間塵上での化学反応に大きな影響を与えるものとして古くから興味が持たれています。 氷のような分子性固体の表面構造を精緻に決定することは、最先端の表面科学計測手法を用いても容易なことではありません。特に水分子の場合、特定の酸素原子の配置が与えられたとしても、そのもとでの水素原子の配置には自由度があり、それを実験的に決定することは非常に難しいのが現状です。

 我々は位相敏感検出和周波発生振動分光法を超高真空下の氷薄膜に初めて適用し、金属との界面での氷の構造や真空との界面での氷の表面緩和の詳細を明らかにしました。特にOH(あるいはOD)伸縮振動による非線形感受率の共鳴増大を位相情報も含めて検出することで、表面・界面でのOH基の「向き」と水素結合の相関を解明しました。

白金(111)表面に成長させた結晶氷では、OH基が白金基板側に配向した状態が氷薄膜成長とともに伝搬し強誘電状態が発現することがわかりました。バルク氷の強誘電相は72K以下で熱力学的に安定ですが、白金界面での相互作用により、それよりはるかに高い温度で強誘電状態が発現することを見出しました。(図1、より詳しくは理学研究科の紹介記事参照)

一方ロジウム単結晶表面に成長させた氷の結晶薄膜では、プロトン配置はランダムな常誘電状態が発現します。反転対称性の破れた領域から発生する和周波信号の性質を利用して、真空側の界面に選択的な信号が得られます。OH伸縮振動領域の非線形感受率虚部スペクトルの形状から、これまで不明であった氷表面の構造緩和に関する知見が得られました。(東北大学 森田明弘教授・富山大学 石山達也准教授との共同研究)

図1:位相敏感和周波発生振動分光により求められたPt(111)上のHDO氷の非線形感受率の虚部。負の符号はOH基が白金基板側にプロトンを向けていることを意味する[1]。
図2:Rh(111)上のHDO氷の非線形感受率の虚部スペクトル[2]。氷の最表面バイレイヤーとすぐ下のバイレイヤーとの間で表面垂直方向の水素結合強度に顕著な違いがあることがわかった。

参考文献



1. “Emergent high-Tc ferroelectric ordering of strongly correlated and frustrated protons in a heteroepitaxial ice film”, Toshiki Sugimoto, Norihiro Aiga, Yuji Otsuki, Kazuya Watanabe and Yoshiyasu Matsumoto, Nature Physics, 12, 1063-1068 (2016).(Selected as News and Views)

2. "Unveiling subsurface hydrogen-bond structure of hexagonal water ice", Y. Otsuki, T. Sugimoto, T. Ishiyama, A. Morita, K. Watanabe, and Y. Matsumoto Phys. Rev. B, 96, 115405 (2017).

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